大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成6年(ワ)577号 判決

原告

出水ヤエ

ほか四名

被告

緒方信仁

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告出水ヤエに対し金一一三五万円五八六一円、原告出水博樹に対し金一八七万二八〇九円、原告岩元朋子、同出水誠、同出水一成に対し各金九四万三八二一円並びに右各金員に対する平成四年五月一八日から各支払済みで年五分の割合による金貨を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告出水ヤエに対し二四一三万七五四六円、原告出水博樹に対し三二〇万二六一三円、原告岩元朋子、同出水誠、同出水一成に対し各二〇一万三九六三円並びに右各金員に対する平成四年五月一八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記交通事故(本件事故)により死亡した訴外出水剛(以下「剛」という。)の母である原告出水ヤエ、兄弟である原告出水博樹、同岩元朋子、同出水誠及び同出水一成が、運転者と運行供用者である被告らに対し、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年五月一七日午前三時一五分ころ

(二) 場所 東京都文京区大塚五丁目四一番先 首都高速道路五号線道路上

(三) 加害車 被告緒方運転、被告直井所有の普通乗用自動車

(四) 態様及び結果

被告緒方が、加害車を運転し、本件事故現場のカーブを東池袋方面から護国寺方面に向け進行中、中央分離帯の壁に衝突し、同車を回転させたため、剛は、開放してあつた助手席窓から車外に放出されて傷害を負い、入院治療を受けたが、同年九月一九日死亡した。

2  被告の責任

(一) 被告緒方

被告緒方は、加害車を運転し、カーブしている本件事故現場道路を走行するにあたり、同所が進路変更禁止の交通規制がされているのに、前車を追い越そうとして制限速度をはるかに超え、急にハンドルを切つたため、加害車を暴走させ、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、剛の死亡によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告直井

被告直井は、加害車の所有者であり、自己のために加害車を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、右損害を賠償する責任がある。

3  原告らの地位

原告出水ヤエは剛の母、原告出水博樹、同岩元朋子、同出水誠及び同出水一成は剛の兄弟である。

なお、剛の父出水吉郎は、剛死亡後の平成五年一月一〇日に死亡した。

4  損害の填補

原告らは、本件事故に関し、次のとおり支払を受け、損害を填補された。

(一) 自賠責保険金 三〇六七万円

(二) 被告緒方 一四〇万円

二  争点

1  好意同乗による損害の減額

2  原告らに生じた損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(好意同乗による損害の減額)について

1  証拠(甲一ないし七、一二ないし二〇、原告出水博樹、被告両名、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告両名及びその友人訴外斉藤一生は、本件事故の前夜、横浜市内の当時の被告緒方の家で雑談をしていた。同日午後一〇時半ころ、剛から被告緒方にギターを貸して欲しいとの電話があつたため、被告らは、加害車でギターを東京都北区赤羽所在の剛が働いていた寿司店まで届けることとした。

(二) 被告直井が、加害車を運転し、一時間位かけて、右寿司店に行つた。剛は同店にいなかつたが、被告らは、近くの小料理屋で飲食している剛に会うことができた。被告らは、剛から勧められるまま飲食したが、被告緒方は、酒が飲めないため、飲酒はしなかつた。

(三) 本件事故当日午前二時三〇分ころ、剛がどうしても被告緒方のもう一本のギターを見たいというので、被告緒方が加害車を運転し、剛が助手席、斉藤が後部右側座席、被告直井が後部左側座席にそれぞれ同乗し、被告緒方の家に向かつた。

剛は、シートベルトを装着せず、窓を全部開け、窓側にもたれて外に顔を出していた。被告直井は、目を閉じていたが、眠つてはいなかつた。斉藤は乗車するとすぐに寝た。

(四) 被告緒方は、本件事故直前、加害車を運転し、カーブしている本件事故現場付近道路を東池袋方面から護国寺方面に向け、時速一〇〇ないし一一〇キロメートルの速度で進行し、進路変更禁止であつたにもかかわらず、前車を追い越そうとして進路変更をしたため、自車を左方に暴走させ、自車左前輪を左側壁の縁石に接触させ、さらに右方に暴走させ、中央分離帯のガードレールに衝突させ、剛を開放してあつた助手席窓から車外に放出し、南池袋パーキングエリアから進入車線に停止中の訴外加藤運転の普通乗用自動車の運転席ドアに衝突させた。

その際、被告ら及び斉藤は、傷害を負わなかつた。

2  右認定によれば、剛は、深夜、わざわざ相当距離のある被告緒方の家まで行くことを強く要請し、シートベルトを装着せず、窓を開け、顔を窓側から外に出していたため、車外に放出されたもので、その際、他の同乗者は傷害を負わなかつたのであるから、剛の右乗車態度の悪いことが本件事故による結果をより重大にしたというべきで、右に被告緒方の過失との対比並びに剛と被告緒方との関係等を考慮すると、剛ないしは原告らが受けた損害の二五パーセント程度を減額するのが相当である。

二  争点2(損害)について

1  剛の損害

(一) 治療費(請求及び認容額・一四二万五二九一円)

証拠(甲二三の1ないし3、二四の1ないし8、原告出水博樹、弁論の全趣旨)によれば、剛は、本件事故後、日本医科大学附属病院及び白鬚橋病院で治療を受け、原告ら主張の一四二万五二九一円の治療費を要したことが認められる。

(二) 入院雑費(請求額・一七万六四〇〇円) 一五万一二〇〇円

剛が本件事故により死亡の日までの合計一二六日間入院したことは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一二〇〇円が相当であるから、入院雑費は一五万一二〇〇円となる。

(三) 付添看護費(請求及び認容額・五六万九二五三円)

証拠(甲二七の1ないし18、原告出水博樹、弁論の全趣旨)によれば、剛は、白鬚橋病院に入院中、職業付添人である江良昭子、小笠原ツマ及び横山富美子の付添看護を受け、原告らが剛のため、合計五六万九二五三円の付添看護費を支払つたことが認められる。

右は相当な損害として是認できる。

(四) 家族の交通費(請求及び認容額・四八万六〇〇〇円)

証拠(原告出水博樹、弁論の全趣旨)によれば、剛の家族である原告らは神戸市内に居住しており、剛の入院期間中、剛の見舞い、看護等のため延べ一八人以上が神戸市内の自宅と東京都内の右入院先まで往復していること、一人の往復の右交通費は二万七〇〇〇円程度要することが認められる。

右によれば、原告主張の交通費は相当な損害として是認できる。

(五) 剛の傷害慰謝料(請求及び認容額・二〇〇万円)

本件事故の態様、傷害の内容その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、剛が本件事故により傷害を受けた精神的慰謝料は、原告ら主張の二〇〇万円が相当である。

(六) 剛の逸失利益(請求及び認容額・三六五五万六四五四円)

証拠(甲二五、原告出水博樹、弁論の全趣旨)によれば、剛は、本件事故当時、満二三歳の男性で、寿司店で就労していたことが認められる。

右によれば、剛は、本件事故により死亡しなければ、満六七歳に達するまでの四四年間にわたつて、平均賃金センサス平均給与年額三一八万九五〇〇円の収入を得られたはずであり、その間の剛の生活費として収入の五〇パーセントを要したものと考えられるので、新ホフマン係数(二二・九二三)を用いて、その逸失利益の現価を求めると、次のとおり原告ら主張の三六五五万六四五四円(円未満切捨、以下同)となる。

計算式

3,189,500×22.923×0.5=36,556,454

(七) 相続

前記のとおり、原告出水ヤエ及び出水吉郎は、剛の両親であるが、剛の死後、出水吉郎が死亡したから、結局、剛の債権債務の四分の三を原告出水ヤエが、その四分の一をその他の原告らが相続した。

したがつて、原告出水ヤエは、右損害合計額である四一一八万八一九八円の四分の三である三〇八九万一一四八円、その他の原告らはその各一六分の一である二五七万四二六二円宛の各損害賠償請求権を相続した。

2  原告出水博樹の葬儀費用(請求及び容認額・一一一万八六五〇円)

証拠(甲二八の1ないし7、原告博樹本人、弁論の全趣旨)によれば、原告出水博樹は、本件事故により死亡した剛の葬儀費用及び遺体の神戸市までの運搬費用等として一一一万八六五〇円を支出したことが認められる。

右は本件損害として是認できる。

3  原告らの慰謝料(請求及び認容額・二〇〇〇万円)

原告出水ヤエ及び出水吉郎は、本件事故により、最愛の子剛を失つたことは前記のとおりであり、その他本件事故の態様及び家庭環境等本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、剛が本件事故により死亡して受けた原告出水ヤエ及び出水吉郎の精神的慰謝料は、原告ら主張の各一〇〇〇万円とみるのが相当である。

ところで、出水吉郎は、剛の死亡後に死亡したことは前記のとおりであるから、同人の右慰謝料請求権をそれぞれ法定相続分にしたがつて、原告出水ヤエが二分の一の五〇〇万円、その他の原告らが八分の一の各一二五万円宛相続したというべきである。

4  好意同乗による損害の減額

前記のとおり、好意同乗による損害の減額をすべきであるので、原告らの損害合計額(原告出水ヤエが四五八九万一一四八円、原告出水博樹が四九四万二九一二円、その他の原告らが各三八二万四二六二円)から二五パーセントを控除することとする。

そうすると、同減額後の原告らの損害は、原告出水ヤエが三四四一万八三六一円、原告出水博樹が三七〇万七一八四円、その他の原告らが各二八六万八一九六円となる。

5  損害の填補

原告らは、自賠責保険から合計三〇六七万円、被告緒方から一四〇万円の各支払を受け、右合計三二〇七万円を法定相続分にしたがい、原告出水ヤエは二四〇五万二五〇〇円、その他の原告らは各二〇〇万四三七五円宛前記各損害賠償債権に充当すべきである。

そうすると、損害の填補後の原告らの損害は、原告出水ヤエが一〇三六万五八六一円、原告出水博樹が一七〇万二八〇九円、その他の原告らが各八六万三八二一円となる。

6  弁護士費用(請求額・原告出水ヤエ一五三万円、原告出水博樹二〇万円、その他の原告ら各一三万円)

本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告出水ヤエにつき一〇三万円、原告出水博樹につき一七万円、その他の原告らにつき各八万円と認めるのが相当である。

三  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告らに対し、主文第一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例